小学生のお子さんの髪の毛が、不自然な形でまだらに抜けている。切れ毛が多く、毛の長さがバラバラになっている。もし、そんな状態に気づいたら、それは「抜毛症(ばつもうしょう)」、または「トリコチロマニア」と呼ばれる症状かもしれません。抜毛症は、円形脱毛症のように病気が原因で髪が抜けるのではなく、自分自身の髪の毛を、自分で繰り返し引き抜いてしまうことによって脱毛斑が生じる、精神的な疾患の一種です。これは、単なる「癖」という言葉で片付けられるものではなく、多くの場合、その背景に不安やストレス、欲求不満といった、子供が抱える心の葛藤が隠されています。抜毛症は、利き手で抜きやすい側頭部や前頭部に現れることが多く、本人が無意識のうちに行っている場合と、意識的に抜いている場合があります。勉強中やテレビを見ている時など、何かに集中している時や、逆に手持ち無沙汰な時に、無意識に髪をいじり、プチプチと抜いてしまう。あるいは、不安や緊張を感じた時に、その気持ちを紛らわすために、衝動的に髪を抜いてしまうのです。髪を抜くという行為が、一時的に心地よさや安心感をもたらすため、やめたくてもやめられなくなってしまいます。親御さんがこの症状に気づいた時、絶対にやってはいけないのが、子供を厳しく叱責することです。「みっともないからやめなさい!」といった言葉は、子供に罪悪感を植え付け、さらにストレスを増大させるだけで、症状を悪化させる原因となります。抜毛症は、子供が発している「心のSOSサイン」なのです。大切なのは、まずその行動の背景にある子供の心に寄り添うことです。学校や家庭で、何か不安に感じていることはないか、我慢していることはないかを、優しく問いかけ、話を聞いてあげましょう。そして、できるだけ早く、小児科や児童精神科、皮膚科といった専門医に相談することが重要です。治療は、薬物療法よりも、カウンセリングなどの心理的なアプローチが中心となります。子供が安心して過ごせる環境を整え、ストレスの原因を和らげてあげることが、何よりの治療です。抜いてしまう行動そのものではなく、その裏にある子供の心と向き合うこと。それが、解決への唯一の道です。
自分で髪を抜いてしまう「抜毛症(トリコチロマニア)」